【特設ページ】公益財団法人JKA 平成29年度 機械振興補助事業・研究補助(若手研究)

マルチマテリアル構造における機械的締結力のその場評価法の開発補助事業成果報告

1.研究の概要

これまでの研究で開発した,打撃試験により取得した評価対象の固有振動数から評価対象の締結力をその場で評価する手法をマルチマテリアル構造に応用し,モンテカルロ・シミュレーション,基礎試験片および実構造を模した試験片を用いた実験を通じて,本手法の実用化に向けた拡張性と今後の課題を抽出した.

2.研究の目的と背景

自動車産業では,強度が必要な部位には鋼を,そうでない部位には軽量なアルミ合金を用いるマルチマテリアル構造が主流となりつつある.本構造の締結方法のほとんどが,組立・分解が容易な鋼製ボルトなどによる機械的締結であるが,アルミ合金の強度が比較的低いために,許容値を超える負荷を与えない程度の適正な締結力の制御が要求される.加えて,ボルト等の脱落に伴う事故を未然に防ぐために,適正な締結力が維持されているか随時評価する必要がある.そこで,本研究では,打撃試験から得た評価対象の固有振動数から,最尤の有限要素解析値を抽出するデータ同化を援用し,評価対象の締結力をその場で評価する手法を開発している.これまで,鋼のみで構成されたボルト締結体において,ミクロンオーダの表面性状が及ぼす影響を再現する界面有限要素を導入し,ボルトの軸力から固有振動数を演繹的に計算するマルチスケール解析手法と,これを用いて固有振動数からボルトの軸力を同定するデータ同化プログラムを開発するとともに,実験によりその有効性を実証した.本事業では新たに,普及しつつある鋼とアルミ合金からなるマルチマテリアル構造に対して,本手法の有効性を検証した.

3.研究内容

(1)モンテカルロ・シミュレーションを用いた数理的同定誤差

基礎試験片の有限要素モデルを用いて,正解の締結力に対する固有振動数を通常の有限要素法で求めた.その後,この固有振動数に種々の疑似ノイズを乱数で付加したものに対して,締結力を本手法によって同定したときの正解値との差を調べた.

(2)基礎試験片を用いた実験

8組のボルト・ナットを用いて,鋼板とアルミ合金板を既定の締結力で締結した.このときの締結力の測定はボルトと座金の間にひずみゲージを取り付けた円筒状スペーサーを挿入し,ひずみゲージの値から見積もった.試験片に加速度ピックアップを取り付けた後,申請者所有のインパルスハンマーで打撃し,試験片に取り付けた加速度ピックアップから固有振動数を得た.取得した固有振動数にデータ同化を施して板材間の締結力を同定し,測定値との差を調べた.このときの同定誤差は10%以下であり,許容範囲内(当初の目標値は30%以下)にあることを確認した.

基礎試験片

基礎試験片に対する打撃試験

(3)実構造を模した試験片を用いた実験

基礎試験片と同様に,本手法による締結力の同定誤差を調べた.実構造物では,ボルトの締結部が複数箇所となるとともに,締結される範囲も広範にわたるため,解析対象とすべき範囲の決定方針など,本手法を実用化に向けた運用面でのノウハウの蓄積や課題の抽出を行った.実構造(自動車フレームおよびトンネル天井板)を模した試験片を用いた実験結果から,基礎試験片を用いた実験結果と同様に,ボルトの締結力の減少に伴って固有振動数が減少することが確認された.しかしながら,固有振動数の減少量は,締結力を変化させるボルトの締結位置や,ハンマーの打撃位置,固有振動数の測定位置によってばらつきがあり,本手法によるボルト締結力の同定を精度良く定量的に行うには,これら固有振動数を測定する際の条件を整理する必要のあることがわかった.

自動車フレーム型試験片

トンネル天井板型試験片

自動車フレーム型試験に対する打撃試験

4.今後の展望

本手法が完成すれば,ねじ・ボルト等による機械的締結部を有する構造物に対して,構成材料が多種類に及んだ場合でも,打撃試験を行うだけで被締結部材間に作用している締結力を簡便かつその場で同定できるようになると考えられる.本手法では,被締結体間の結合力を直接評価するので,リベットなど他の機械的締結法に対しても適用できる.笹子トンネル事故に代表されるようなボルトの脱落の防止にも応用が期待される.副次的に,張り合わせ面の表面性状も同定するので,直接観察が困難な張り合わせ面のミクロな変形状態も同時に把握できるといった学術的に有意義な知見も提供できると考えられる.

5.本研究にかかわる知財・発表論文等

  • 岸本喜直,小林志好,大塚年久,新妻基,データ同化を援用したマルチマテリアル構造における機械的締結力の推定に関する研究,第64回理論応用力学講演会,平成29年8月,CD-ROM(OS11-01-05).
  • 新妻基,岸本喜直,小林志好,大塚年久,データ同化を援用した異種金属締結体の締結状態の評価,日本機械学会 2017年度年次大会,平成29年9月,CD-ROM(No.G0300701).
  • 岸本喜直,小林志好,大塚年久,新妻基,マルチマテリアル構造における機械的締結力のその場評価法における測定誤差の影響,日本機械学会M&M2017材料力学カンファレンス,平成29年10月,CD-ROM(No.OS0204).

6.自己評価結果

本事業の当初研究目的はすべて達成された.具体的には,
  • (1)モンテカルロ・シミュレーションおよび(2)基礎試験片を用いた実験は目標値を達成した.
  • (3)実構造を模した試験片による実験では,本手法の適用可能性を示せたとともに,今後の課題を抽出できた.

謝辞

本研究は公益財団法人JKA(オートレース)の補助を受けて実施した.





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